作家、三浦しをんさん。独特の視点で描く情緒豊かでユーモアに富んだ作品は、老若男女問わず多くの読者を魅了し続けています。今回のインタビューでは、11月発売の書籍『マナーはいらない 小説の書きかた講座』に込めた思いと、三浦さんにとっての「書くこと」についてお話を伺いました。
もともとは、※コバルト短編小説新人賞の選考をする中で、小説家志望の方にアドバイスをするつもりで書き始めたんです。ただ、真っ当なことばかり書き綴るのは柄じゃないし面白くないので(笑)。一つの読み物として、エッセイ感覚で楽しく読んでもらえるように心がけました。ふと手に取った人にも、「あれ、小説書けるかも?」なんて思っていただけたら嬉しいですね。
※㈱集英社が主催する短編小説新人賞
昔から一人で脳内で喋ったり、空想するのが好きだったんです。小説を書き始めてからは尚更ですね。「自分はいま何を思っているんだろう」とか、「なんであの人はあの発言をしたんだろう」ということを常に考える。一つひとつの体験をより噛み締めて、覚えるようになりました。
私の場合はそれが小説のネタになるけど、小説家じゃなくても「考えること」は大切だと思います。妄想や空想って、日常をより面白くするんですよ。
登場人物が自分に憑依した瞬間ですかね。ほんの一瞬なんですけど、まるで生霊が乗り移ったかのように感情もセリフも何もかもが一体化するときがあるんです。その瞬間は、本当に頭が真っ白になっているんですよ(笑)。
はい。でも、映画やコンサートを観ていても似たようなことありませんか? 心から「面白い」「かっこいい」と感じたとき、一瞬頭が真っ白になる。集中しすぎて、雑念が消えるんでしょうね。
そんな風に夢中になれることをいくつか持っておくと、人生すごく充実すると思うんですよ。現実から離れて気分転換できるし、刺激にもなりますから。
文章の上達はもちろんですけど、書くことって自分の気持ちを整理したり、頭をスッキリさせる効果があると思うんです。パソコンでもスマホでも手書きでも、書くって「手先を使う」行為ですから。脳が活性化するんでしょうね。
読書って、「旅に行かなくても旅ができる」数少ない手段なんです。例えば、北海道が舞台の小説を読めば、北海道を旅した気持ちになれる。…だけじゃなくて、登場人物の心の中にまで行けるのが読書の醍醐味ですよね。本があるおかげで、違う世界が見られて、違う人になれる。自分の体験や想像力だけでは絶対に味わえないことを、本が叶えてくれるんです。
そうだと思います。だって、現実世界だけ見ていても退屈じゃないですか? 私も毎日「面白いことなど、何もない…」なんて思いながら過ごしていますし(笑)。でも、誰かが作った物語に触れることで、自分以外の人生を歩むことができる。登場人物を渾身で応援しているときとかあるじゃないですか。あの熱狂が楽しいですよね。
「抗わない」こと。自分の年齢を受け入れて、年相応の気遣いや思いやりの心を持てる人が素敵だと思います。あと、体重やシワの数を若いころと比較して悲観的にならない(笑)。「もういいじゃん!」って、気にしない精神を大事にしたいです。
でも、自分のやりたいことや好きなものは諦めたくないかな。私だったら、服装だけはいつまでも攻めの姿勢でいたい。「年相応の格好を…」なんて言われても、「うるさい!」と言い返す反骨精神は持ち続けていたいですね(笑)。
『マナーはいらない 小説の書きかた講座』
三浦しをん・著/集英社
2020年11月5日発売
定価 本体1,600円+税
装画/三宅瑠人 集英社