作家 三浦しをんさんインタビュー（2020年10月25日掲載）

三浦さん初の「小説読本」とも言える本書。作家を目指す人はもちろん、それ以外の人にとっても読み応えのある内容です。

もともとは、※コバルト短編小説新人賞の選考をする中で、小説家志望の方にアドバイスをするつもりで書き始めたんです。ただ、真っ当なことばかり書き綴るのは柄じゃないし面白くないので（笑）。一つの読み物として、エッセイ感覚で楽しく読んでもらえるように心がけました。ふと手に取った人にも、「あれ、小説書けるかも？」なんて思っていただけたら嬉しいですね。

※㈱集英社が主催する短編小説新人賞

物語を創るうえで三浦さんがどのように着想を得ているか、その工程も書かれていました。

昔から一人で脳内で喋ったり、空想するのが好きだったんです。小説を書き始めてからは尚更ですね。「自分はいま何を思っているんだろう」とか、「なんであの人はあの発言をしたんだろう」ということを常に考える。一つひとつの体験をより噛み締めて、覚えるようになりました。
私の場合はそれが小説のネタになるけど、小説家じゃなくても「考えること」は大切だと思います。妄想や空想って、日常をより面白くするんですよ。

書いていて、一番楽しい瞬間は？

登場人物が自分に憑依した瞬間ですかね。ほんの一瞬なんですけど、まるで生霊が乗り移ったかのように感情もセリフも何もかもが一体化するときがあるんです。その瞬間は、本当に頭が真っ白になっているんですよ（笑）。

書くことに没頭するからこそ得られる体験ですね。

はい。でも、映画やコンサートを観ていても似たようなことありませんか？ 心から「面白い」「かっこいい」と感じたとき、一瞬頭が真っ白になる。集中しすぎて、雑念が消えるんでしょうね。
そんな風に夢中になれることをいくつか持っておくと、人生すごく充実すると思うんですよ。現実から離れて気分転換できるし、刺激にもなりますから。

三浦さんは、毎年山形で開かれる小説家講座でも講師としてご登壇されていますよね。

そうなんです。今年はコロナもあってオンラインで開催したんですけど、すごく印象に残った方がいて…。80代の女性で、エッセイと短編小説を織り交ぜたような作風で書かれていました。それが非常にキレのあるカッコいい文章で！ ご本人に聞いてみたら、昔から日記というか随想を書き続けていると。やっぱり普段から言葉にする習慣がある人は、良い文章を書くなぁ～と思いましたね。
文章の上達はもちろんですけど、書くことって自分の気持ちを整理したり、頭をスッキリさせる効果があると思うんです。パソコンでもスマホでも手書きでも、書くって「手先を使う」行為ですから。脳が活性化するんでしょうね。

三浦さんは書き手である一方、かなりの読書家だとも伺いました。

読書って、「旅に行かなくても旅ができる」数少ない手段なんです。例えば、北海道が舞台の小説を読めば、北海道を旅した気持ちになれる。…だけじゃなくて、登場人物の心の中にまで行けるのが読書の醍醐味ですよね。本があるおかげで、違う世界が見られて、違う人になれる。自分の体験や想像力だけでは絶対に味わえないことを、本が叶えてくれるんです。

まさに「本は心の旅路」だと。

そうだと思います。だって、現実世界だけ見ていても退屈じゃないですか？ 私も毎日「面白いことなど、何もない…」なんて思いながら過ごしていますし（笑）。でも、誰かが作った物語に触れることで、自分以外の人生を歩むことができる。登場人物を渾身で応援しているときとかあるじゃないですか。あの熱狂が楽しいですよね。

最後に、三浦さんにとって「理想の歳の重ね方」とは？

「抗わない」こと。自分の年齢を受け入れて、年相応の気遣いや思いやりの心を持てる人が素敵だと思います。あと、体重やシワの数を若いころと比較して悲観的にならない（笑）。「もういいじゃん！」って、気にしない精神を大事にしたいです。
でも、自分のやりたいことや好きなものは諦めたくないかな。私だったら、服装だけはいつまでも攻めの姿勢でいたい。「年相応の格好を…」なんて言われても、「うるさい！」と言い返す反骨精神は持ち続けていたいですね（笑）。