役者としてのキャリアを築き上げた後、50歳で映画監督デビューを果たすなど、自身の可能性に挑み続ける俳優・奥田瑛二さん。今回のインタビューでは、2月公開予定の映画『痛くない死に方』の見どころと、ご自身の健康についてお話を伺いました。
撮影/梁瀬玉実
(c)「痛くない死に方」製作委員会
「この役を自分が演じる理由はなんだろう」と、毎回考えるんです。今回に関して言えば、一つは監督である高橋伴明さん。長年一緒に仕事をしてきて、お互いに気心が知れている彼と作品を創れるのはとても嬉しいことです。
もう一つは、やはり主演を務める柄本佑の存在です。彼は我が家の一員、僕の義理の息子ですから。作中では師弟関係にあり、僕は彼に医師として、また人として「どうあるべきか」を指導します。その点に大きなやりがいを感じました。
(c)「痛くない死に方」製作委員会
映画のテーマとしては「生きること」と、その対極にある人生の終末地点、「死」があるわけで。その2つが交差しながらドラマが展開するのですが、これまで役者として多くの人間を生き、また死んできた僕としても、もっと深いところで「最期を迎えること」について学んだ気がします。「人生に終わりはあるけれど、生きている限りは終わらないものなんだな」って。
でも、だからこそ自分で「終わり方」を決めるのだと思います。美しく最期を迎えるためにどうするべきか、それを考えること自体が人生なのかも知れません。
もう10年ほど前ですが、自分の寿命を98歳に決めたんです。ただ、コロナ禍になってからそれを3年延ばして、今は101歳がゴールです。
なぜ3年なのかというと、新型コロナが蔓延し始めたとき、「これまでの日常生活を取り戻すには3年かかるだろう」と予測したからです。3年間、時計の針は動くけれど、世の動きは止まったまま。多くの人が「今やりたいこと」を強制的に断念させられたわけです。ならばその分寿命を延ばさないと、この空白期間を前向きに過ごせませんよね。
新型コロナの影響で、多くの若手俳優も落ち込んでいましたから。せっかく主演のオファーが来たのに仕事が断ち切られてしまった、と。落ち込むのは当然ですよね。ただ、僕は「違うぞ」と。「この時代を生きている人は皆、同じように時間が止まっている。だから焦る必要はない。寿命を3年延ばすことを考えて、今のコロナ禍をどう使うかが大事なんだ」と、そう伝えたんです。そうしたら皆、「重荷が取れました」と前向きな言葉を返してくれましたね。
そう。そして時間――つまり寿命を延ばすのなら、身体はより大切にしなくちゃいけない。健康でなければ長生きはできませんから。
僕は幸いなことに、これまで大きな病気をした経験がありません。それはやっぱり、妻の作る食事に助けられている面が大きいかな。野菜は知り合いの農家の方から取り寄せた新鮮なものを使うし、スーパーでの買い物も身体のことを第一に考えて材料を選別してくれます。
妻には本当に感謝していますよ。こんなこと、初めて言うけど(笑)。
でも、こうして感謝の念を言葉にしてみると、改めて身の周りを顧みることの大切さに気づきます。
今回の映画で感じたことでもありますが、世の中には、身近な人を失って独りで暮らしている年配者が多くいらっしゃる。孤独は悪いことではないし、僕自身も独りは好きです。ただ、自暴自棄になった末の「ひとりぽっち」は怖いなと思う。そうならないためにも、人生は所々で振り返り、自分を育ててくれた人や環境に感謝する。それを忘れないことが大事だと思います。
40歳を過ぎたころ、家族を集めて宣言したんです。「僕が最期を迎えるとき、右手を挙げたら『幸せだった』、左手を挙げたら『不幸せだった』、どちらも挙げなかったら『まあまあだった』」と。年齢を重ねるにつれ、その瞬間も近づいてくるわけですよね。最後はやっぱり、右手を挙げたいですから。走れる間は走り続ける。それが僕の生き方ですね。
2021年2月20日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開
監督・脚本:高橋伴明
原作・医療監修:長尾和宏
【出演】
柄本佑 坂井真紀 余貴美子 大谷直子 宇崎竜童 奥田瑛二
制作:G・カンパニー
配給・宣伝:渋谷プロダクション
【公式サイト】http://itakunaishinikata.com/
(c)「痛くない死に方」製作委員会