圧倒的な演技力で役に溶け込み、数多くの作品で強い存在感を示す高畑淳子さん。今回のインタビューでは、8月13日(金)より上演される舞台『喜劇 老後の資金がありません』の見どころと、ご自身の健康についてお話を伺いました。
撮影/梁瀬玉実
1954年、香川県出身。76年に劇団青年座に入団。舞台、映画、テレビドラマ、バラエティと多方面で活躍している。2013年読売演劇大賞最優秀女優賞、菊田一夫演劇賞演劇大賞受賞。2014年紫綬褒章受章。その他にも文化庁芸術祭個人賞、紀伊國屋演劇賞個人賞など受賞多数。近作に、舞台『雪まろげ』、『チルドレン』、『チョコレートドーナツ』、映画『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』、『女たち』、NHK連続テレビ小説『なつぞら』などがある。
今回私が演じるのは、夫と街で小さなベーカリーを営む主婦・神田サツキです。節約に熱心で、髪を切るときは美容院へ行かず自分で切ったりと、とにかくお金にシビアな性格(笑)。「ケチではない、節約は生き方であり、人生をサバイブすることだ」と言って一見たくましく見えるのですが、親友の篤子(演・渡辺えり)の前では弱さをさらけ出す一面もあったり、とても人間らしい役ですね。強い自分を演じきれないサツキの姿にはどこか胸を打たれるというか、きっと共感できる方も多くいらっしゃると思います。
もう25年ほど前でしょうか。私がパルコ劇場で芝居をしていたとき、ある共演者の方の演技に「イケてないな」と思うことがあったんです。終演後に楽屋にいたら、ドドドッとえりさんが入ってきて、その共演者の方に「あんた、あの役、分かってる!?」って(笑)。その日、えりさんはお客さんとして来ていたのにですよ。すごい熱量だなぁと感動しちゃって。ものを作るってこういう刺激があってのことなんだなと、思わず背筋が伸びましたね。
キャリアを積むと周りの人からの指摘も減って、裸の王様になりがちですから。えりさんと共演することで“本気の芝居”を作れるのかなと思います。
今回、特にご高齢の方のお申し込みが多いんです。「ずっと家に篭っているのもつらいから、今回はお芝居を観に行こうと思う」———と。コロナ禍で多くの人に枯渇していたものって、やっぱりエンターテインメントだと思うのです。小説や映画、舞台の世界は思いがけない出来事の連続で、それでも踏ん張って生きていく人間の姿があるから、私たちは感動するし背中を押される。
演劇は、不要不急ではないと信じています。お客さんの精神的な支えになれるように、心を込めて演じるつもりです。
私は意外と喉が弱くて、舞台上でも途中から無声演劇みたいになってしまうことがあるんです (笑)。なので公演期間中は、極力喋らない、朝起きてすぐにかかってきた電話は出ない、換気扇の下に座らない、音で喉が振動するので音楽は聴かない……と、喉のケアを大事にしています。一度で出し切ってしまう癖があるので、都度自分の身体と相談しながら最後までお客さんに満足してもらえるよう調整するのが一番の課題ですね。
ルーティーンに関して言えば、稽古場には必ず1時間前に入ってラジオ体操から始めています。それと、元メジャーリーガーの黒田博樹さんをメンテナンスしていた方が考えてくださったオリジナルの体操を30分。年々、パフォーマンスを少しでも上げるために取り組むことが増えています。
そうなんです。学生時代は練習がしんどくて「もう二度と泳がない!」と思っていたはずなのに、結局最後に残るのは水泳なんですよ。一時ランニングに挑戦したこともあったのですが、代々木公園を走っていたら自分が一番遅いことに気がついて……(笑)。ひざも痛くなるし、身体に負担がかからない水泳が良いと思って今でも続けています。プールに行ったら最低1キロは泳ぐようにしていますね。
“この歳だからこそ醸し出せるもの”があると思うんです。『喜劇 老後の資金がありません』もそうですが、今年の5月は『お終活 熟春! 人生、百年時代の過ごし方』という映画にも出演させていただきました。「今の自分には、老後に控える社会問題に悩む等身大の女性を求められているんだな」と感じますし、またそのキャラクターに似合う雰囲気があるからお声掛けいただけたのかな、と。
昔は、自分に拍車をかけて演じることばかりを考えていましたが、これからは「身をさらす」意識で演技に臨みたいですね。これまでの演劇人生の中で経験したこと全てに価値があり、その全てを無防備にさらけ出せることが、私の一番の魅力だと思っています。
私、草笛光子さんが大好きで、とても尊敬しているんです。ロケで山へ行ったときはスタスタ歩くし、ステーキもぱくぱく食べたりと、とにかく若さに溢れていて。長く女優業を続けていらっしゃる方を観察すると、やはりよく食べる、よく動く、ということを徹底しています。
運動を始めるのは億劫ですけど、出来ることを少しずつ積み重ねていけば、必ず身体は健康に向かっていくはずですから。それは長生きをするためではなくて、“良い終わり方”をするために大事なことなのだと思います。
『喜劇 老後の資金がありません』
新橋演舞場 8月13日(金)初日 ~ 26日(木)千穐楽
大阪松竹座 9月1日(水)初日 ~ 15日(水)千穐楽
【原作】垣谷美雨(中公文庫)
【脚色・演出】マギー
【出演】渡辺えり 高畑淳子
羽場裕一 原嘉孝 松本幸大(ジャニーズJr.) 宇梶剛士
長谷川稀世 明星真由美 多岐川華子 一色采子
【松竹HP】https://www.shochiku.co.jp/play/schedules/detail/2108_enbujyo/
チケットに関するお問い合わせ先:チケットホン松竹(10:00~17:00) 0570-000-489