歌舞伎俳優・十七代目中村勘三郎さんの長女として生まれ、昨年で芸能生活70年を迎えた波乃久里子さん。10月に出演する花柳章太郎 追悼「十月新派特別公演」への意気込みと、ご自身の「健康観」についてお話を伺いました。
撮影/梁瀬玉実
神奈川県出身。昭和25年、十七代目中村勘三郎襲名披露公演で初舞台。初代水谷八重子に魅せられ、36年に『婦系図』の妙子で新派初参加、37年に劇団新派入団。『遊女夕霧』『明治一代女』などの新派古典に多く代表作を持つ。47年『雁・お玉の行く道』で芸術祭優秀賞、平成2年『大つごもり』『遊女夕霧』で菊田一夫演劇賞、23年に紫綬褒章を授賞。令和2年2月には新橋演舞場『八つ墓村』で田治見小竹、12月には新橋演舞場の「新派朗読劇場『女の決闘』」で高沢花子を務めた。
『太夫さん』は、昭和30年に花柳先生主演で初演された舞台です。京都・島原の遊廓で女将を務めるおえいの人生を描いた作品で、私が初めてこの作品に出演したのは遊廓で一番若い小車太夫という役でした。当時の花柳先生のお芝居を間近で見ていましたから、同じおえいを演じる以上、先生の「心」を大事にしようと思いながら毎回舞台に立っています。
まずはいつも通り、稽古前にお墓参りに行って先生の気持ちを汲み取ることから始めるつもりです。
私の師匠である初代・水谷八重子先生は、「女形は超えられないから、絶対にマネしてはダメよ」と口酸っぱく仰っていました。女形は男性が女性を演じるので、ある意味「嘘」をついているわけです。女優が女形の芝居を真似てしまえば、嘘をさらに塗り込むことになってしまいますよね。なので、同じ役でも花柳先生のおえいとは全くの別物です。
私は女優として嘘をつくのではなく、「削ぎ落とした芸」を見せなくてはいけないと思っています。
甥の勘九郎(六代目中村勘九郎)から「新派代表の一人として何か発信しなきゃ」と言われまして(笑)。私は毎日部屋の掃除を習慣にしているので、勘九郎が私に合わせて動画の台本作りから撮影まで全部やってくれて、『波乃久里子(マロン)のお掃除ルーティーン』という動画を配信したんです。そしたら反響が凄かったみたいで!
一年間で一度も使わなかったものは基本的に捨てています。一年も放置していたら、二度と使わないですよ (笑)。着物は大事にとってありますが、洋服は何枚、靴は何足と自分の中で決めていて、その数を超えたらもう捨てちゃう。残すものは、お金だけで良いんです。
勘九郎に勧められてトレーニングを始めたんです。もともと弟(十八代目中村勘三郎)のトレーナーを務めていらっしゃった方に、週二回リモートでご指導いただいております。トレーニングは一回20個以上の種目を与えられて、食事に関しては毎日厳しく管理してくださっています(笑)。大変ですが、おかげさまで3キロ痩せることができました。
私の家では妹夫婦や甥夫婦を含めて5所帯が一緒に暮らしていて、コロナ禍以降みんな家で過ごすようになったから家族同士顔を合わせる機会が増えたんです。その結果、見た目の変化もすぐバレてしまうという……。勘九郎から、「これ以上太ったらダメですよ」と釘を刺されまして(笑)。
でも、そのおかげで私も運動を始めることができましたし、何より自分の健康を気遣ってくれる家族が身近にいることの有難さを感じました。私自身、コロナ禍になる前は家族にあまり関心を持つことがなかったんです。でも、共に過ごす時間が増えた今は、姪や甥孫と話したり、出かけることが本当に楽しくて。
家族は希望ですね。彼らの成長を傍で見ることが、私のモチベーションであり健康の源になっています。
私は「本音で生きること」が大切だと思っています。本音で生きているとストレスもあまり溜まらない。時には毒を吐くことだって自分の健康を守る行為です。
私が演じているのは自分のためでもありますが、自分の役に全力で取り組んだ結果として、お客様に元気を届けられたらそれが一番嬉しいです。ぜひ劇場に足を運んでみてください。
花柳章太郎 追悼『十月新派特別公演』
10月2日(土)初日 ~ 25日(月)千穐楽 新橋演舞場
一、「小梅と一重」
原作:伊原青々園 脚色:真山青果 演出:成瀬芳一
キャスト:水谷八重子 喜多村緑郎 河合雪之丞
二、「太夫さん」
作:北條秀司 演出:大場正昭
キャスト:波乃久里子 田村亮 藤山直美
【お問い合わせ】チケットホン松竹(0570-000-489)