映画『極道の妻たち』の出演など、コワモテ役の印象が強い綿引勝彦さん。最近では「優しいお父さん役」も多く、10月公開の『一粒の麦 荻野吟子の生涯』では、主人公・吟子に寄り添う温厚な父親を演じます。今回の映画の見どころと、ご自身の健康に対する考え方についてお話を伺いました。
撮影/安友康博
今回の作品は、明治時代のいわゆる「男尊女卑」、「女性蔑視」が蔓延する世の中で、主人公・荻野吟子が日本初の女医になるまでの波乱万丈な人生を描いた、ノンフィクション映画です。女性医師の存在が当たり前になった現代だからこそ、観る方は「こんな時代があったのか…!」と驚かれるでしょうし、吟子のひたむきに頑張る姿に感動を覚えると思います。
若い世代からお年寄りまで、多くの方に観ていただきたいですね。
綾三郎役を実際に演じる上で、当時の彼の気持ちを想像したのですが、私も思わず胸が痛くなりましたね。
今の時代では、およそ想像もつかないような苦労を経験したと思いますよ。
結婚したあと夫から性病をうつされ、「子を産めない嫁はいらん!」と家を追い出されてしまうんです。治療の過程で経験した羞恥から、「苦しむ女性たちを救いたい」と医師を志すのですが、当時は国も医学界も、女医を認めてくれない世の中。そんな状況でも、自分が決めた道をただひたすら突き進んだのですから、本当に尊敬するべき素晴らしい人です。
ちょうど還暦を迎えるころに病気を発症しました。それまで傍若無人に好きなものばかり飲み食いしていたツケが回ってきたんでしょうね…。
身体に異変を感じたのは、当時控えていた舞台の稽古の最終日でした。胸のあたりが苦しくなり、駅から自宅に向かう道をハァハァ言いながら、休み休み帰ったんです。病院で診察を受けると、すぐに手術を受けることになりました。まさに間一髪でしたね。医師によると、もしも動脈がブワッ!と破裂していたら一巻の終わりだったそうです。私の場合は、タラタラと血が流れ出ていたみたいで、一命を取りとめることができたんですね。
手術は成功したのですが、術後しばらくは苦しい入院生活が続きました。だから、退院が決まって病室から出たときは、嬉しくて思わず涙がこぼれましたね。それから、過去の不摂生を改めようと決心したんです。
今では、時間があればウォーキングをしたり、食事もバランスに気をつけて太らないように意識しています。特に食事では、お酒と脂っこいものは控えるようにして、代わりに苦手な野菜をたくさん食べるように努力していますよ。3ヵ月に一度のペースで通院もして、お医者さんのアドバイスも受けながら常に体調維持を心がけています。
病気と無縁な今の生活があるのも、病院の先生方の的確なアドバイスのおかげですね。
ドライブを良くしますね。長野の八ヶ岳だったり、軽井沢の方へ景色を楽しみながら車を走らせています。ただ、運転の途中でも常に台本のことは頭にあるんですよね(笑)。「初めのセリフのボリュームはどうしようかな?」「これじゃちょっとマズいかなぁ」なんて試行錯誤するんですけど、運転している時間は不思議とその作業が捗るんです。たとえオフの日でも、頭の片隅では台本のことを考えているのが役者というものだと私は思っていますから。
「セリフは歌うんじゃない!語るんだ!」という風にね。要するに、感情はいつも“自分のうしろ”になくちゃいけないということです。例えば、怒りを表現するときも感情のままに怒号を飛ばすんじゃなくて、ちゃんと冷静に言葉で言いくるめなければ相手に伝わらない。
そういった芝居の基本をみっちり教わった下積み時代でしたから、セリフは今でも一番大切にしています。
「人生ほどほどに」ですかね。私も、若い頃は常に全力で仕事に取り組んでいました。でも、この年齢になると「ほどほどを守り続けていくこと」の大切さに気づかされます。
私は、演技でも人生でも「余白」を持つことを大事にしています。90%は出しても、残り10%の「余白」を持っておく。初めから100%を出してしまったら、もうそれ以上の伸びしろがないわけですよ。それに、いつも全力を出し切っていたら、疲れてしまいますからね(笑)。だから、人生も、恋愛も、酒も、みんな「ほどほど」に。そのほうが、伸びしろのある豊かな人生を送れるんじゃないでしょうか。
ケイズシネマ新宿 ほか、全国の劇場で公開予定
監督・製作総指揮:山田火砂子
脚本:重森孝子、山田火砂子
キャスト:若村麻由美 山本耕史 賀来千香子 渡辺梓 佐野史郎
山口馬木也 綿引勝彦 磯村みどり
現代ぷろだくしょん
03-5332-3991
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