撮影/塩川雄也 ヘアメイク/藤原羊二
今回ご出演される『風博士』はどのような舞台ですか?
戦時中から活躍していた作家・坂口安吾さんの短編小説をモチーフに、劇作家・北村想さんが創作したオリジナルの舞台です。坂口さんは、戦後の焼け跡を背景に“これからの日本のあり方”を訴えかける作風で知られた方ですが、今回の舞台『風博士』のテーマにも通じている気がしています。
敗戦後、自立できず迷子になっている人々の姿を浮き彫りにしていく…そんな作品だと思います。
『日本文学シアター』シリーズのご出演は2度目となる渡辺さんですが、本シリーズの魅力は?
シリーズ全作を書き下ろしている北村想さんの作品には、彼自身が身をもって体験した悩みや苦しみがそのまま映し出されています。過去の作品も「人間はなぜ悩み、なぜ孤独なのか」という哲学的なテーマが色濃く描かれています。
私自身も彼と同世代の劇作家ですので、同じようなテーマを扱いますが、北村想さんの目線は全く違うんです。だからこそ、彼の作品にひとりの役者として参加するのは楽しいですし、今回も演技に嘘がないようやりきりたいと思っています。
舞台にTVと大忙しの渡辺さんですが、ずばり健康の秘訣は?
アボカドを毎日欠かさず食べることですね。2年ほど前、ある健康情報番組に出演したとき、「メキシコにひざが悪い人はいない」という特集があったんです。メキシコでは、80~90歳の人がみんな元気に踊っていて、「なんでだろう?」と思ったら、アボカドがひざの健康の秘訣なんだとか。だから私も真似して、その日から毎日アボカドを食べ始めたの。そしたら、本当にひざの痛みが治っちゃって!(笑)
それ以来、今もず~っとアボカドを食べ続けていますけど、本当に調子が良いんですよね。
渡辺さんのご両親は認知症を患っているとお聞きしました。
母が75歳のときですね。私のもとに電話をかけてきて、「なんだかボケそうだ」と。母がまず発症したのは、中耳炎でした。病院に行くのを拒んでいるうちに、鼓膜が破れ、耳が聞こえなくなってしまったんです。その後、何かの拍子で右手を骨折すると、今度は料理ができなくなってしまって。この2つの出来事から、一気に症状が加速していったんですね。
父も、最近まで元気だったんですが、一度手術を経験してから声が出なくなってしまいました。それからもの忘れがひどくなり、認知症へと進行しました。私も「あのとき、もっとこうしていれば」と悔やみましたが、当時は仕事で多忙を極めていました。それはもう地団駄を踏むような思いでしたね。
ちょうど舞台でお忙しくされている時期だったんですね。
私たち日本人は真面目だから、みんな忙しいんですよね。ただ、その忙しいことを言い訳に、なんでも合理的に処理してしまうのは、良くないのかもしれません。
例えば、お年寄りに「どうしたの?」と話しかけても、返事に時間がかかるでしょう。合理的であることだけ考えていたら、そのやり取りが面倒くさくなって、コミュニケーションそのものを断ち切ってしまう。認知症が始まってしまえば、悪くなる一方になってしまいますよね。
だから、そんな世の中の流れを変えていくことが、今の日本に何より必要なことだと思うんです。
ご自身も、2007年に大病を経験されたのだとか…
扁桃腺膿腫(へんとうせんのうしゅ)という病気で、喉に膿がたまって腫れてしまったんです。もともとは、なんてことのない風邪でした。当時も舞台で忙しくしていたので、毎日休む間もなくステージで大きな声を出していたんですね。すると、徐々に熱が出始るとともに喉の痛みもみるみる増していって…最終的には痛みで眠れないほどまでに悪化したんです。「これはマズい」と思い、病院で診察を受けると、すぐに手術を受けることになりました。
手術を乗り越えて、今は元どおり回復されたんですね。本当に良かったです。
結果として、私は無事に手術が成功して声を取り戻しましたが、反対に失敗して、そのまま亡くなる方もいると聞きました。だから、手術前にそのリスクを知らされたときは、正直とても不安でしたね。
でも、そんな経験をしたからこそ、今では「声が出るうちに歌いたい」と強く思うようになりました。実は、来年からはコンサートも積極的に開こうと考えているんです。今自分が持っている声帯は、決して永遠ではないのだと気づかされましたから…。何でも、やれるうちにやることは大切ですね。
最後に、読者の方にメッセージをお願いします。
健康でいることは大事ですが、病気になることを恐れすぎても人生味気ないと思います。体のどこか一部にハンデを背負うことで、逆に人生に踏ん切りがつく人もいる。だから、例えば日本人の健康寿命とされている75歳を一つの区切りと考えて、思いっきり生きてみるのも楽しいんじゃないかな。
あと、私は遺品整理は早めにしたいと思っています。感動した本、お気に入りの指輪、そういったものはどんどん若い人に譲り渡していく。日本人は「新しもん好き」が多いと思うんです。でも、故人の生きた価値、古いものの価値をもっと重んじるべきだと思います。そうすることで、人と人の繋がりも生まれて、世の中もっといい方向に進むんじゃないかしら。
東京公演:
2019年11月30日(土)~12月28日(土)
世田谷パブリックシアター
大阪公演:
2020年1月8日(水)~1月13日(月・祝)
森ノ宮ピロティホール
作:北村想
演出:寺十吾
音楽:坂本弘道
キャスト:中井貴一、段田安則、吉田羊、趣里、林遣都、松澤一之、
内藤裕志、大久保祥太郎、渡辺えり
企画・製作・お問い合わせ: シス・カンパニー
http://www.siscompany.com/kazehakase/