撮影/梁瀬玉実
~髙嶋政宏さんプロフィール~
1965年、東京都出身。1987年に映画『トットチャンネル』で俳優デビュー。同作及び映画『BU・SU』で、第11回日本アカデミー賞新人俳優賞、第30回ブルーリボン賞新人賞、第61回キネマ旬報新人男優賞などを受賞。主な出演作に、ドラマ『山岳救助隊・紫門一鬼』シリーズ、『ストロベリーナイト』、映画『スマグラー』、『本能寺ホテル』、舞台『エリザベート』、『黒蜥蜴』など。近年では活動の幅を広げ、バラエティ番組にも多数出演している。
巨匠・黒澤明監督と名優・三船敏郎さんが初めてタッグを組み、終戦直後の闇市に生きる人々の交錯を描いた映画『醉いどれ天使』。今なお世界中で愛される名作が、今秋舞台となって上演されます。髙嶋さんの役どころと、舞台にかける意気込みを教えて下さい。
黒澤監督と三船敏郎さんは、僕が日本の映画界で最も崇拝するお二人。その名コンビの原点となった『醉いどれ天使』の舞台に出演できるのは本当に嬉しいことですし、興奮しています。オファーを頂いたときは思わず「え、嘘だろ!?」と叫んだくらいですから(笑)。
僕が演じるのは、主人公の松永(演・桐谷健太)の兄貴分である岡田です。“典型的なワル”にはしたくない。場面に応じて声色とテンションをどう変えられるか、そこが肝ですね。
演出を手掛けるのは、日本を代表する映画監督・三池崇史さん。髙嶋さんも非常にワクワクしていると伺いました。
三池監督の作品にはずっと前から出たいと思っていましたが、まさか舞台で叶うとは……! 男臭くて泥臭いバイオレンスに、独特の笑いを盛り込むところが大好きなんですよね。それこそ『醉いどれ天使』なんて、まさにお手の物だと思います。舞台作品はシリアスなだけでは最後まで持たなくて、笑いも含めて色々な要素が入らないとお客さんも飽きてしまいますから。
あとは、クライマックスでの僕と桐谷さんとの揉み合いですね……どれくらい激しいものになるか、自分自身楽しみです(笑)。
舞台で演じるときに髙嶋さんが意識していること、あるいは心構えのようなものはありますか?
やっぱり「役にどれだけ成りきれるか」でしょうね。台詞ではなく、「その人が今言っている言葉」にどこまで近づけられるか。ただ映画やドラマと違うのは、舞台上では大きな声でハッキリ、且つ自然にお客さんへ届けなくてはいけないということです。そういう意味では、役に入り込み過ぎないという意識も大事。入り込み過ぎると自分の中だけで響いてしまって、お客さんには何も伝わらないので。それが舞台の難しさであり、やりがいでもあります。
演技に臨む前のルーティーンや段取りなどは決められているのでしょうか。
僕の場合は、まず劇場に入ったらメイクをして、それからストレッチ、筋トレ、発声練習という流れです。動きの激しい作品だと、本番三分前までひたすら階段のへりでふくらはぎを伸ばしています。第二の心臓と呼ばれる場所なので(笑)。
普段の食事に関しては、朝はプロテイン、昼は炭水化物、夜は野菜とタンパク質という風に決めています。僕にとってはこれが黄金比率。ポイントは、昼の炭水化物をできるだけ午後の早い時間帯に入れることです。夜に近づくほど消化と代謝が悪くなってしまうので、何をいつ食べるかということは特に気にしていますね。
かなり細かく管理されているのですね。
役者もアスリートと同じだと思っているので。ある時期からは、公演期間中にお酒を飲むことも無くなりました。舞台上で最高のパフォーマンスをすることが一番の快感になって、今では二日酔いとか、少し喉がガラガラになるのも嫌なんです。理想は、舞台を終えて帰り際に知り合いに会っても「えっ、舞台終わりになんて見えない!」と言われるような状態であること(笑)。疲れを残さず「元の状態に戻す」ことを意識しています。
髙嶋さんの奥様であるシルビア・グラブさんも数多くの舞台でご活躍されていますが、そのような体調管理法はお二人とも共通しているのでしょうか。
彼女は、僕より年に何本も多く舞台に出ているのに、普段からお酒もよく飲みます(笑)。それでも体力や関節の強さ、喉の筋力は全然衰えないから、本当にすごいなぁと思いますね。最初のころは僕も「明日舞台あるんだから、そんなに飲んじゃダメだよ」なんて言っていましたが、今はそれもないです。彼女のベストな状態は本人が一番よく分かっているし、僕が口を出すのも違うかなって。夫婦仲良くいられているのも、お互いの行動を制限しない、干渉し過ぎないという意識があってこそだと思いますから。
芸能界では大の「健康オタク」としても知られる髙嶋さんですが、健康を気遣うようになったきっかけは何だったのでしょうか。
やはり、父(高島忠夫)の病気は大きかったと思います。父は最初、40代のころに暴飲暴食から糖尿病になって。そのときはあまりピンとこなかったんですけど、その数十年後にうつ病を発症したときは衝撃を受けました。当然のことではありますが、「人って病気になるんだ」と。
父の生活パターンを見ていたら、やっぱり一番の原因はお酒、それと睡眠導入剤でした。結局、病気に対する恐怖って身近な人から与えられるものだと思います。僕も父の病気があったから、薬に頼らず「自分で健康を守ろう」と考えるようになったので。
最後に、ご自身の「健康観」をもとに読者にメッセージをお願いします。
健康とは、「己を知ること」だと思います。僕も50代になってから、自分の身体のどこが弱くて、どこに古傷があって……という風に、色々な部分を知るようになりました。食事や運動も同じですよね。何を食べると太って、何を食べると痩せるのか、どのトレーニングが自分に必要なのか。
いくつになっても自分自身と向き合い続け、知り続けることが大切なのだと思います。
舞台『醉いどれ天使』
【東京公演】9月3日(金) ~ 20日(月・祝)/明治座
【大阪公演】10月1日(金) ~ 11日(月)/新歌舞伎座
原作:黒澤 明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:三池崇史
出演:桐谷健太 高橋克典
佐々木 希 田畑智子 篠田麻里子
/ 髙嶋政宏