役柄に応じてさまざまな表情を見せる井浦新さん。その個性的なキャラクターは、数々の作品で絶妙な存在感を残しています。近日公開予定の映画『朝が来る』では、不妊症の末に養子を受ける決意をする栗原清和役を好演。撮影の裏話と、自身の健康法についてお話を伺いました。
スタイリスト/上野健太郎 ヘアメイク/樅山敦(BARBER BOYS) 撮影/梁瀬玉実
この作品に出会うまで特別養子縁組制度を深く知りませんでした。出演のお声がけをいただいてから自分なりに調べもしたのですが、生身の情報ではないのでイマイチ想像がつかなくて…。
でも、撮影直前のタイミングで、実際に特別養子縁組制度でお子さんを持った方々とお話しすることができたんです。そこで、制度の素晴らしさに感動しました。「子どもが欲しい」と切に願う夫婦にとって、大事なのは“血”ではない。一緒に過ごしてきた時間や経験…その全てが積み重なって、家族ができるのだと。
この映画をきっかけに、養子を検討するご家庭が少しでも増えたら嬉しいです。
そんな河瀨監督の強いこだわりもあって、いざ本番で両者が向かい合うシーンでは異様な緊張感が漂っていました。「子を返して欲しい」と迫り来るひかりに対して、父親としての防衛本能が自然と湧き上がってきたのを覚えています。
そうですね。河瀨監督の作品は今回が初めてでしたが、とにかくリアリティを追求することに一切妥協がない。出演者それぞれが、自分の写らないシーンでも役に徹するよう求められるんです。
だから、カメラが回っていないところでも栗原家はずっと3人で過ごしていて。役の名前で呼び合うことはもちろん、「今日のお昼ご飯、何にしようか」なんて家庭的な会話も生まれていました。
僕自身、日を追うごとに清和と徐々に重なっていく手ごたえがあって、本当に自然な演技ができていたと思います。
※撮影以外の時間も常にその役として生活すること。河瀨直美監督ならではの手法。
「ちがう」、「もう1回」、「そうじゃない」………何度も怒られはしましたが、それでも清和という人間になりきろうと一瞬一瞬に全身全霊を捧げた。その姿勢を培ってきた今までのキャリアは、決して間違っていなかったんだなと確信が持てました。
俳優って、忙しければ忙しいほどやっぱり不健康になりがちな仕事なんです(笑)。それこそ、役作りだったり、体重のコントロールだったり…精神と肉体の両方が削ぎ落とされていく職業だなぁと、常々感じます。
でも、不思議と「辞めたい」と思うことはなくて。忙しいときほど“自分が本当にやるべきこと”が見えてきて、頭の中が整理されるんです。限られた時間を無駄なく使えているという意味では、僕の性格に合っているのでしょうね。
「丸一日たっぷり寝よう!」みたいな日も最高の贅沢だとは思うけれど、寝すぎるのも返って不健康だから。心も体もリフレッシュさせるのなら、僕は自然がベストだと思います。
もちろん、役者として体重はいつでも変えられるように、日々体のメンテナンスはしています。でも、それは趣味の登山を続けるためでもある。足腰が弱って、行きたいところにも行けなくなってしまったら、それこそ僕にとっては不健康。趣味を続けるための努力も大切にしています。
歳を重ねても、やりたいことはたくさんあるもの。でも、その中で熱量を注ぐものはちゃんと決めて、他のものは切り捨てる勇気を持つことが大事だと思います。
多くのことに手を出しちゃうと、結局どれも中途半端になりがちだから、「これだ!」と決めたものに情熱を傾けて徹底的にやる。結果として成果は得られなくても、その頑張り自体が人生に彩りを与えるはずだから。
※公開日につきましては公式HPをご確認ください。
監督・脚本・撮影:河瀨直美
原作:辻村深月(文春文庫)
出演:
永作博美 井浦新 蒔田彩珠 浅田美代子 佐藤令旺
田中偉登 中島ひろ子 平原テツ 駒井蓮 利重剛
配給:キノフィルムズ/木下グループ
http://asagakuru-movie.jp/